厚生労働省障害者保健福祉推進事業【障害者自立支援調査研究プロジェクト】
うつ病からの社会復帰支援のための
通院・在宅医療、福祉連携強化モデル事業
~女性の遷延うつからの社会復帰支援モデル~
目 次
- 要 約
- はじめに
- 研究の目的
- 研究の方法
- 研究の結果
- 1. 準備作業
- 1)予備的調査
- 2)研究班で用いる「支援計画表」の書式作成
- 3)調査対象医療機関におけるレセプト調査
- 2. 各医療機関における試行的な支援の実施
- 1)支援を行った事例
- 2)支援方法
- 3)うつサポーターの役割分担
- 4)支援時間とコスト
- 5)支援前後におけるHAM-D,SASSの変化
- 考 察
- 1. 総合考察
- 1)遷延うつの女性に必要な心理社会的支援
- 2)心理社会的支援によってもたらされる病状改善
- 3)アセスメントと支援計画
- 4)支援期間
- 5)利用社会資源
- 6)うつサポーターの役割とあり方
- 2. 個々の支援プログラムについての考察
- 1)女性の遷延うつに対する「うつサポーター」の役割と有効性
- 2)女性うつサポータの有効性についての考察
- 3)女性の遷延うつに対するデイケアの有効性
- 4)女性の遷延うつに対するショートケアの有効性
- 5)女性の遷延うつに対する個人認知行動療法の有効性
- 6)女性の遷延うつに対する個人精神療法の有効性―認知行動療法を通して―
- 7)遷延うつに対する入院療法の有効性と意義―女性のうつ病を中心に―
- 8)福祉施設を活用しようとしてうまく行かなかった1事例
- 9)女性の遷延うつの回復を促すために精神科診療所に求められること
- 事例研究
- 1. 試行的支援事例
- 1)支援中断例
母親との折り合いの悪さが寛解を阻害していると思われる大学生ケース
- 2)デイケア利用例①
薬物療法、ECT等が奏効せず、認知療法を受けながら復職を果たしたケース
- 3)デイケア利用例②
復職を目指し、認知行動療法を中心としたデイケアへ参加した双極性障害ケース
- 4)デイケア利用例③
認知行動療法を通して問題解決が図れるようになり、パートタイム就労が果たされたケース
- 5)デイケア利用例④
家庭環境、対人関係に困難があり、自殺企図を繰り返していたケース(デイケア利用中断)
- 6)ショートケア利用例①
サポーターの面接とショートケアでその時々のこだわりを解消し、生活しやすくなったケース
- 7)ショートケア利用例②
過去の別れにこだわり抑うつ状態が遷延し、診療とカウンセリングでは行き詰まっていたケース
- 8)ショートケア利用例③
焦燥感を抱きやすい性格から抑うつ症状が遷延していたのがショートケアで改善したケース
- 9)個人カウンセリング利用例①
セルフモニタリングを通じて、電車恐怖などを克服していったケース
- 10)個人カウンセリング利用例②
思考記録をつけることで自分の感情を表現できるようになり、生活しやすくなったケース
- 11)個人カウンセリング利用例③
軽うつ状態が遷延し、就労の意欲・自信が持てず生活保護で暮らしていたケース
- 12)個人カウンセリング利用例④
カウンセリングには興味がなく、目的のはっきりしたものなら受けるという摂食障害ケース
- 13)ケースワークのみ
今最もとらわれている問題にサポーターが助言指導することで改善が見られたケース
- 14)入院治療例
10数年にわたり再燃を繰り返していたが、入院治療によって改善されたケース
- 2. これまでに遷延うつ女性の支援で成功した事例報告
- 1)デイケア利用例
- 2)ショートケア利用例
- 3)個人カウンセリング利用例①
- 4)個人カウンセリング利用例②
- 5)入院治療例
- 6)就労支援事業所利用例
要 約
うつ病は生涯有病率の高い疾患であるが、その中には遷延するケースが少なくない。遷延うつから社会復帰するためには、治療と併せて支援が必要であると思われるが、現在行われているうつに対する社会復帰プログラムとしては、リワークプログラム(復職支援)が普及し始めたばかりである。しかし、リワークプログラムには職業を持たない方、家庭の主婦やアルバイトの女性などは乗りにくいまた、女性には、仕事だけ無く、家事、育児、近所付き合い、趣味、などの多様な役割や活動領域を持っており、支援方法や支援場面を画一的にできない難しさがある。
そこで、「遷延うつの女性」を対象とした社会復帰プログラムを構築するための試行研究を行った。
6つの医療機関において14ケースの試行的支援を実施した。1ケースを除いて、3ヶ月の試行的支援を完遂することができた。支援を始めるにあたっては“うつサポーター”がアセスメントを行い、疾病や生活の状況、本人や家族の意向を確認し、対象者の課題を明らかにし、支援計画を立てた。支援の内容は、①ケースワーク面接のみ、②ケースワーク面接+デイケア・ショートケア、③デイケアのみ、④個別認知行動療法、⑤入院治療、に大きく分けられた。
支援の効果は、うつ症状の評価尺度HAM-Dと、うつ病の社会機能評価尺度であるSASSを用いて評価した。支援の前後に全ての評価尺度を実施できた11ケースのうち、1例を除いてHAM-DとSASSの両方に有意な改善が見られた。HAM-DよりもSASSにより大きな変化が見られ、今回の支援が主に社会機能の改善に役立つこと、社会機能の改善ほどではないが、うつ症状の改善にも効果があることがわかった。
今回の支援は、①心理的サポートと②生活上の問題解決サポートの二つを併せた支援、即ち、心理社会的支援であった。社会や家庭において孤立し、さまざまな問題に直面した遷延うつの女性に対しては、診療と併せて心理社会的支援が必要と結論づけられた。
今回、支援のために実際に利用した社会資源は医療機関が提供する、うつに特化したデイケアやショートケア、カウンセリングルームなどに限られていた。利用できるように準備していた福祉施設や訪問介護やベビーシッターなどは、利用を勧めても、手続きが煩雑、費用が掛かる、などから本人が利用に抵抗を示したために利用されなかった。
今回の支援は、各ケースを担当する“うつサポーター”が中心になって行われた。“うつサポーター”が担った役割は、①心理的サポート、②アセスメント、③サービス計画の立案と調整、であった。今回の支援では、これらの役割を“うつサポーター”がすべて担ったが、振り返ってみて、一部の役割(アセスメント)は別のスタッフが分担した方が良かったと考えられるケースもあった。
うつサポーターが中心になって行った支援に要した時間は3ヶ月で一人あたり平均約7時間半であった(デイケア、ショートケア、個人認知行動療法に要した時間を除く)。少ないコストで大きな成果が得られることが分かった。
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