事業案内

H17(2005)年度日本精神科救急学会発表要旨

東京都精神科救急医療情報センターにおける頻回利用者の実態と対応の工夫

羽藤邦利 西村由紀 (特定非営利活動法人メンタルケア協議会)
根本靖彦 小川隆 (東京都福祉保健局障害者施策推進部精神保健福祉課)

資料 (PDF : 36KB)

情報センターが設置されて三年が経過し、相談件数は増加傾向にある。平成14、15年度は平均29.6件/日、平成16年度は31.1件/日、平成17年度は7月までの実績で33.2件/日となっている。

電話の相談内容について平成14年度と平成16年度を比較してみると、情報センター設置当初は心理相談を求めてくるケースが多く、平成14年では26.6%を占めていた。しかし「緊急に精神科医療を受診する窓口です。」とアナウンスを続けたところ、平成16年では13.4%と半減した。また、緊急の症状がなくて、医療機関の情報提供を求めてくるケースも21.8%から15.6%に減少した。このことからは、精神科救急情報センターの役割が周知されつつあり、救急医療を求める都民の利用が増えているといえる。

救急医療を求めてきたケースの相談内容について比較してみると、意識障害、幻覚妄想、興奮錯乱、暴力、自殺企図・念慮など、比較的重篤な症状を持っているケースは、平成14年度は27.7%であったが、平成16年度は31.2%と僅かに増加しているだけで大きな変化はないが、不安焦燥、睡眠障害などの比較的軽い症状のケースは、18.8%から29.8%と1.5倍以上に増加している。

実は、相談内容のこのような変化は、頻回利用者の変化が大きく関係している。年間に10回以上電話をかけてきた利用者の延べ相談件数は、確実にわかっているだけで一割前後を占める。情報センター設置当初の頻回利用者の多くは、日常の出来事や悩みを聞いてもらいたいケース、毎日のように同じ妄想の話を繰り返すケースであった。そのような頻回利用者には、情報センターがそのような相談を受ける役割ではないことを根気強く伝え、相談業務を行っている機関を紹介した結果、多くは電話をかけてこなくなった。そして平成16年度からは「東京こころの夜間電話相談」の試行が始まり、そちらを案内することもできるようになった。しかし、最近の頻回利用者は、情報センター設置当初の頻回利用者とはやや違う。不安で眠れずに一晩に何度もかけてくるケースや、焦燥感が高まって逃避的な入院を希望するケース、死にたい気分だから今すぐ何とかして欲しいと訴えるケースが多い。ほとんどが通院中で、日中の対応に工夫が必要であったと考えられるケースが多い。主治医との治療関係や家族や友人、交際相手との葛藤が背景にあるものが少なくない。そのようなケースを、夜間休日に救急医療として普段掛かっている医療機関とは別の医療機関につなげることが果たして適切なことかどうか迷われる。例えば、母親との葛藤をきっかけに興奮が収まらず、家族、本人ともに強く入院を希望してきたケースを二次救急に繋げたところ、連絡もなくキャンセルされるということが珍しくない。たいていは、途中で和解し興奮が鎮まったということであった。このようなケースでは、相談者の思い通りにならないと激しく反発され、相談員は対応に苦慮することがよくある。

頻回利用者からの電話であっても、その度毎に必ず相談を受け止めながら状態を判断し、必要な助言も行い、適切と思われる対応を考えて行くのが基本である。その上で重要なことは、情報センターとしてある程度一貫した対応を繰り返すことである。それによって、電話の回数が減り、具合が悪い時にだけたまにかけてくる状態に落ち着くケースもある。

救急医療情報センターおいては、頻回利用者に電話を占拠されないようにすることが、機能を維持するために必要である。情報センターを設置して時間が経つに従い、「新しい頻回利用者」が蓄積していく心配がある。頻回利用者の対応には細心の工夫が求められる。頻回利用者の事例を挙げて、タイプによる対応の工夫を述べてみたい。