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H23(2011)年度日本精神科救急学会発表要旨

「救急医療の東京ルール」が始まって、東京都精神科救急医療情報センターでの
“救急隊ケース”の受け入れはどう変わったか

西村由紀、羽藤邦利 (特定非営利活動法人メンタルケア協議会)

資料 (PDF : 715KB)

 東京都では、平成21年8月31日から、「救急医療の東京ルール」が導入された。119番通報を受けて救急車が出動したが、搬送先の病院が決まらず受け入れ困難に陥る問題を解消するためである。都内12の二次医療圏ごとに1か所以上の「地域救急医療センター(固定または輪番。精神科を持たないところが多い。)」を設置し、東京消防庁に「救急患者受入コーディネーター(以下コーディネーター)」が配置された。救急隊が2次救急レベル以下と判断した患者で、医療機関への受け入れ照会を5回以上行ったか、搬送先選定に20分以上かかったケースについて、救急隊が地域救急医療センターに連絡して調整を依頼し、調整担当医師が地域内での受け入れ調整を行う。地域内で受け入れられなかった場合には、コーディネーターが地域間での調整を行う。それでも受け入れ先が決まらなかった場合は、患者がいる地域の地域救急医療センターが受け入れる。

「救急医療の東京ルール」導入後、東京都精神科救急医療情報センター(以下情報センター)にコーディネーターから精神症状を伴う救急医療患者の受け入れ要請が来るようになった。東京ルールが始まってから、救急隊が出動している精神科関連ケースについて、情報センターの受け入れ状況がどう変わったかを明らかにしようとした。

まず、東京ルールの始まった8月31日より前の30か月とその後の19か月を比較し、救急隊が関係しているケースの分析を行った。その結果、救急隊が関係しているケースの全電話件数は、東京ルール開始後も増加せず、僅かながら減少した。内訳をみると、現場の救急隊からの電話件数は減ったが、消防庁司令センター及びコーディネーターからの相談件数は倍以上に増加していた。また、これらのケースで、情報センターから初期・二次・身体合併症の当番病院を利用したケース、トリアージ医師相談を利用したケースは、いずれも増えた。特に身体合併症件数は倍増している。これは、身体合併症当番病床が無い場合に、情報センターから精神科病床を持つ都立病院すべてに受け入れの打診をしてよいというルールが、同じ時期に導入された影響も大きいと思われる。

これらの結果から、東京ルール開始後、救急隊が関わっているケースの情報センターへの依頼は、当番医療機関の利用が必要なケースにより厳選されてきていると考えられる。情報センターは、コーディネーターからのケースに、できるだけ迅速に、適確に対応する必要がある。そのためにどのような工夫をすれば良いか、事例を通して検討したい。