事業案内

平成20年度報告書

厚生労働省障害者保健福祉推進事業【障害者自立支援調査研究プロジェクト】

医療機関や社会復帰施設が精神障害者の緊急対応を
行いやすくするための研究

医療機関や社会復帰施設が精神障害者の緊急対応を行いやすくするための研究

目 次

  • はじめに
  • 全体要約
  • I 若年精神障害者における緊急対応ニーズ及び未治療期間と受診経路の調査
  • II 精神科診療所の精神科医が精神科救急で担える役割に関する調査
  • III 相談支援事業所が精神科救急医療体制の中で担える役割に関するアンケート調査
  • IV 急な診療に役立つ情報「オレンジノート」の試用

全体要約

平成20年度には次の調査を行った。

① 若年精神障害者における緊急対応ニーズ及び受診経路と未治療期間の調査

平成19年度の調査で拾えなかった若年者の救急対応ニーズを調査し、平成19年度の調査を補完した。また、未治療期間と受診経路等の実態を明らかにした。

② 精神科診療所の精神科救急での役割についての調査

地域で最も数が多い精神科診療所が、救急医療で現在どのような役割を担っているのか、今後、公的救急及び公的救急以外の救急医療においてどのような役割を担える可能性があるかを明らかにした。

③ 相談支援事業所が緊急対応について担える役割についての調査

地域の中で、現在、相談や訪問サービスを担っている相談支援事業所が、精神障害者の緊急時の対応で現在どのような役割を担っているか、今後担える可能性があるかを明らかにした。

④ 緊急受診に役立つ情報「オレンジノート」の試用と改訂

救急受診の際に「診療情報の不足を補う仕組みがない」ことが大きな障害になっている。診療情報不足を補うツールとして平成19年度に試作したオレンジノートを平成20年度に実際に試用し、救急対応の改善に役立つのかを検証した。また、試用結果から、改訂版を作成した。

上記4つの調査から以下の結論を得た。

16~30歳の349人の統合失調症通院患者から回答を得た。その結果、若年精神障害者は、「不安イライラ」「暴力・物を壊す」「死にたい気持ちが高まる」などの困難な状況を壮年の精神障害者よりも多く経験していることが明らかになった。そのような困難な状態の時に取っている対応は、「家族に相談」が最も多かった。可能なら取りたい対応は、「主治医やかかりつけに電話相談」が最も多く、ニーズと実態が異なっていた。普段の相談先も圧倒的に家族が多く、家族の負担が大きいことが示唆された。16~30歳の統合失調症通院患者500人の未治療期間の平均は13.1ヶ月であったが、長期未治療であった患者も含まれていたため、ばらつきが大きかった。未治療期間の長短にかかわらず、受診前の相談先は家族が圧倒的に多く、家族の果たす役割が大きいことがわかった。公的機関や学校や職場などへの相談は少なかった。

精神科診療所793ヶ所から回答を得た。9割近くの診療所には精神保健指定医が勤務しており、約4人に1人が措置診察に協力し、1/3の診療所は平日17時以降もしくは休日に診療を行っていた。2008年5月に厚生労働省から通達された精神科救急医療体制整備事業の中で位置づけられている「外来対応型施設」「病院群輪番施設」「常時対応施設」「精神科救急情報センター」に対して、それぞれ約4割から5割の診療所が、医師の出向、オンコールによる相談、自院の参画などによって協力できる可能性があると回答した。また、地域の救急病院への精神科コンサルテーションについても、48%の診療所がオンコールなどで協力できる可能性があると回答した。但し、協力するためには「対応できないようなケースが来た場合のバックアップ体制」や「協力しやすい時間帯」「業務範囲の限定」などの条件が何れも挙げられていた。

232ヶ所の相談支援事業所から回答を得た。84%が平日17時以降も電話相談を受けており、23%が24時以降も対応していた。日祝も相談に対応している事業所は69%であった。24時以降も電話対応をしている事業所は、対応していない事業所に比べて、利用者の「不安イライラ」「死にたい気持ちが高まった」などの困難な状況を多く体験していた。8割異常の相談事業所は、利用者の緊急時には、日中であれば「かかりつけ医への連絡」や「職員が自宅へ訪問」などを行っていた。しかし、夜間はそれらの対応は難しく、「職員に携帯電話を持たせて相談を受ける」「非番職員の招集」などによって対応しているところが多いが、夜間や休日には対応手段がない事業所が17%前後あった。相談支援事業所が緊急対応の役割をもっと担っていくためには、「人手不足」や「症状悪化への対応スキル」、「地域連携による他施設の協力」などの課題があることがわかった。

オレンジノート約3000部を、家族会や医療機関、福祉施設に配布した。試用後のアンケートには、患者72名、医師43名から回答を得た。患者・医師ともに、ノートは記入しやすく、有用であるとの回答が多かった。しかし、患者は「医師が忙しいので頼みづらい」と回答が目立った。情報更新やサイズなどの利便性、診療報酬点数化が課題としてあげられた。また、精神医療や福祉、行政などの専門家で検討会を行い、改訂を行った。高齢者等を対象とした国内外の同様の取り組みを参考に、本人や家族、支援者、医師などが記載し、自宅の冷蔵庫に専用容器にて保管するノートと、本人が携帯する緊急時の連絡先を記した名刺大のカードの二つに分割した改訂版を作成した。

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